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執筆者の写真岩波新書編集部

竹村彰通さん『データサイエンス入門』インタビュー


今日発売の新刊『データサイエンス入門』の著者であり、滋賀大学データサイエンス学部長を務めている竹村彰通さんにお話をうかがいました。データサイエンスって何? って思ったあなた、まずはこのインタビューから。


  * * *


――滋賀大学データサイエンス学部新設から1年ですね。この4月には、横浜市立大学にデータサイエンス学部、東北大学にビッグデータメディシンセンターなども新設されました。日本でもデータサイエンスのチャンスは大きいですね。


ここ 10 年で時代が大きく変わってきたと感じられます。その一つの象徴はスマートフォンの普及でしょう。人々は常時ネットに接続し、人々の行動の履歴は直接データとしてネットに蓄積されるようになりました。これは非常に大きな変化で、このデータを用いることにさまざまな新たなサービスが提供されるようになりました。これからは、さまざまな機器からもデータが常時得られるIoTの時代になります。


また科学研究の分野でも、計測技術や通信技術の飛躍的発展により、これまで観測できなかったものが観測できるようになり、観測されるデータが大幅に増えてきました。遺伝子解析、天体観測のための望遠鏡、超音波検査やCTスキャンによる体内の可視化など、このような進歩の例は枚挙にいとまがない。まさにビッグデータ時代の到来です。科学研究はいま、データ駆動型で進む「第4の科学」というパラダイムシフトを経験しています。


そして、ようやく今、日本でもビッグデータを分析できるデータサイエンティストの組織的な育成が始まりつつあります。学部新設に奔走しながらの同時並行作業でしたが、本書では、最近の社会的な変化の中でデータサイエンスの果たす役割やデータサイエンスの性格について、数学的な細部に入りこむことをせず、さまざまな観点から論じています。


――アメリカなどと違い、なぜこれまでデータサイエンスは日本で広がりを見せることができなかったのでしょうか?


日本人に欠けているのは統計的な「センス」と「倫理」だと思います。


私が言う「センス」とは、データ重視の価値観のことです。私が日本人にもっとも欠けていて問題だと思うのは、数学や統計の能力ではなく、統計的なセンスの欠如なのです。


いくらデータがあっても、上司や同僚から「数字だけわかっていてもだめだ」「現場がわからなければだめだ」などの反応を受けることがまだまだ多いのが現状です。やはり、もう少しデータをもとに考えて決定するとか、あるいは意思決定をする際には、必ず何らかのデータ的根拠を持って決める、そういった仕事のやり方を根づかせていく必要があると思います。


最近ではようやく「データを活かしきれていない」「データサイエンスの観点からデータを見てほしい」「データから見るとこれまでと違った見方ができるかも知れない」という反応に変わってきているし、これからデータサイエンティストが育成されることでさらに変わってくると思います。


「倫理」の欠如はデータ改竄として現れます。これは今さら申し上げるまでもないことです。


――学生さん、社会人の皆さんが注目しているデータサイエンスですが、ズバリ何ですか?


データの処理には情報学、データの分析には統計学、またデータから価値を引き出すためにはそれぞれの応用分野の領域知識が必要です。本書では、データ処理、データ分析、価値創造の3つの要素をデータサイエンスの3要素と呼んでいます。


情報学と統計学の双方の要素を持つ技術として、最近では機械学習の手法が発展しています。情報学と統計学の双方を機械学習という語でくくれば、データサイエンスは機械学習によるビッグデータからの価値創造と言うこともできます。


最近では AI(人工知能)技術に対する期待が大きくなっており、将来 AI 技術の進展により一部の職業が不要になると言われていますが、それらの職業の多くは定型的なデータ処理を含む仕事です。


ただ、注意しなければならないのは、ビッグデータ時代になってもあらゆることについて正確なデータが得られるようになっているわけではないことです。データは万能ではなく、その性質を正しく理解し情報を引き出す必要があるのです。


例えば、学生の時代に教科書的なきれいなデータだけを扱っていたのでは、データサイエンス学部の卒業生が職場に入って実際のデータに直面した時に、かなりとまどってしまうでしょう。データから有用な情報を引き出し、それを意思決定につなげていくような仕事はデータサイエンティストの重要な仕事として残るでしょう。データの見方を学びデータサイエンスの動向を理解することは、将来の仕事のあり方を考えるためにも重要なことです。


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竹村彰通(たけむら あきみち) 1978年東京大学大学院経済学研究科理論経済学・経済史学専門課程修士課程修了。スタンフォード大学統計学科客員助教授、東京大学経済学部教授、同大学大学院情報理工学系研究科教授等を経て、2016年滋賀大学データサイエンス教育研究センター長に就任。現在、同大学データサイエンス学部長。日本統計学会賞(2008年)、日本統計学会出版賞(2014年)などを受賞。




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